【調査趣旨】
現在、新型コロナウイルスの影響により、人びとの生活に大きな影響が生じています。
新型コロナウイルスの影響下では、感染拡大防止のために人が集まる活動の自粛が要請され、これまでの活動の継続や、新たな活動の展開が難しい状況になっています。そのため、これまでも苦しい状況にあった人がいっそう大変な状況に追い込まれていることがわかりつつも、迅速な動きができないジレンマが現場では生じています。
わたしたちJYCフォーラムでは、社会的に弱い立場にある人たちが排除・孤立することなく生きていくことのできる環境を、支援者にとっても当事者にとっても持続可能なかたちでともにつくっていくことのできる環境を維持していきたいと考えます。
そのために、まず今、若者を支える現場でどのようなことが起きているのかを明らかにするため、緊急アンケートを実施いたしました。その結果を踏まえ、さらに具体的に要望を提出し、支援策を検討することを目的として、第二弾のアンケートを実施したいと思います。皆様からお寄せいただいた情報をもとに、今どのような施策が必要で、これからにむけてどのような提案がしていけるかを考えていく予定です。どうかご協力をお願いいたします。
【調査概要】
調査日:2020年5月18日~6月14日
調査方法:WEB入力
回答団体数:80団体
団体規模(予算別):500万円未満28%、500~3000万円29%、3000万~1億円18%、1億円以上25%
団体規模(正職員数):0人25%、4人以下30%、5~20人12%、20人以上22%
【調査結果概要】
[1]事業に対する影響
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- ほぼすべての団体が休止・縮小・代替実施を余儀なくされている状況にある(2)
- とりわけ「居場所活動」における中止が多く、「相談活動」は電話やオンラインでどうにか継続している団体が多い(6)
- ふだん利用している施設が使えなくなり、活動もできなくなったという現場もある(6)
- 職場体験など、外部との連携が難しくなってしまった(4,9)
- 日に日に状況が変わるなかで、若者を振り回してしまっているのではないかという危惧(10)
- 「ソーシャルディスタンスを求められることと、居場所で人とかかわることが相反する矛盾を感じながら運営していかざるを得ない苦しさ(10)
[2]団体運営にかかわる影響
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- 団体の収入に対して、既に「影響が生じている」という団体はおよそ半数に上る(4)
- とりわけ自主事業での収益減がかなり大きな痛手となっている(4)
- イベント自粛により、会費や寄付を集める機会がなくなり、収入減となっている(4)
- 「寄付どころではない」ということで、個人や企業からの寄付が受けづらくなった(4)
- 雇用調整や持続化給付金、休業協力金などの各種補償に対しては、「検討していない」が70%に上っており、その半数が「活用できる制度がない」と回答している(7,7-2)
[3]委託事業をめぐる状況
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- 感染症予防やオンライン体制整備のための費用を助成金や委託事業のなかで支出できるかどうかは、半数は「可能」であるが、「未確定」も3割ほどある状態(5)
- 行政からの指示・対応について、「一方的に通達された」というところもあれば、「自粛」を言われただけでサポートや保障などもないままだったというところなど、さまざま(6)
- 予算については、活動実態に即して減額が示唆されているところもあれば、「未定」の状態となっているところ、あらためて契約変更をしたところなどさまざまある(6-2)
[4]若者への影響(9)
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- 「収入が減り生活困窮に」「採用後の自宅待機から離職へ」「就労支援の難しさ」など、経済状況の悪化が若者の生活実態を追い詰めている
- 「親子関係の悪化」「家庭内の虐待リスクや性に関するリスク」「昼夜逆転や自傷行為」など、家庭内のリスクが高まっている
- 対面で会える機会がなくなり、支援が途切れてしまったり、つながれていたとしても「本人の状況が分かりづらくなっている」状況が広がっている
- 「若者が集まれる機会を失ってしまった」「日常(の場の一つ)がなくなり、いろいろなものを溜め込ませている」「孤立を深め体調不良に陥っている」「問題会費・思考停止状態を生んでいる」など、支援の場に通うことができなくなったことで、いっそう孤立を深めている状態にある
- 「社会に出て動こうとしない口実になった」「これまで以上にいっそう外出を控えている」という意見がある一方、それらは「コロナ禍以前から存在している」悩みであり、本質は以前と変わらない、という意見も
- オンラインになることで、これまでアクセスできていなかった若者とつながれるようになったり、「オンラインの方が話しやすい」という若者もいたりして、メリットもある
[5]その他困りごとやそれへの対応など(10)
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- 「関係機関への同行支援など、他機関との連携が難しくなった」(10)
- 「正解が見えないまま、行政と現場で責任とイニシアティブが曖昧となっていること」(10)の問題性や、「(来年度の方向性も含めて)行政担当者との丁寧な協議の必要性」がある(11)
- 「場を運営していく際に合意形成がとてつもなく大変になってしまっている」(10)「臨時の会議を開き、認識を共有できる方針づくりを心掛けた」(11)
- 「スタッフも利用者も等しく「当事者」になっている」(11)「ボランティアのメンタルヘルス」や「職員のモチベーション」の維持・対応が喫緊の課題となっている(10)
- 「人と会うことが何かいけないんじゃないか、罰せられるんじゃないかという恐怖」(10)
- 「自粛要請」の範疇からは外されている社会福祉関連事業のロジックを援用して、感染症対策を取りつつ活動を継続実施した(11)
[6]今後への期待(12)
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- 「オンライン対応などについて、相談したり学べる機会がない」(10)
- 「他団体との情報交換」(11)「それぞれの団体で実施している工夫の共有・交流」(12)
- 「実践者としての悩みを気軽に話せる場(が欲しい)」(12)
- 「若者支援実践者(職員)の所得保障」(12)
- 「新しい社会に適用する、自立ケアのあり方の検討」(12)
アンケート調査結果を受けてのコメント
以上の調査結果を踏まえ、私たちが大事にしてきた「若者協同実践」という観点から、以下のようなコメントをまとめましたので、報告します。より具体的な提言などについては、今後さらに現場からの声を集めながら、検討を進めていきたいと思います。
1.若者の声が聴き取られ、誰も取りこぼされない社会へ
企業社会と家族の下に囲い込まれた若者の排除・孤立の問題は、もともと社会的に不可視化されてきたという経緯がありますが、それがこの間の外出自粛の風潮により、いっそう見えづらくさせられているという実態があります。
調査からは、居場所が相次いで閉鎖されるなか、若者たちの小さな声・つぶやきが拾われる機会が失われているという実態が見えています。一部では、オンライン対応なども整備されつつありますが、そういった環境が整っていない若者も少なくありません。また、どちらかというと既存のつながりの維持という活用が多く、対面での集まりの場が果たしていた機能の代替とはなりえない状況が見出されています。とりわけ、新たなつながりを生み出す回路としてどのような形態が可能なのかという部分は、まだまだ検証・模索が必要な状況となっています。
生活基盤の脆弱化、家族への内閉化といった問題をはじめ、「社会とのつながり」の回路が絶たれてしまっていたり、将来への見通しが抱けない不安を抱えていたりなど、個々の若者が直面している課題は多岐にわたりますが、若者自身の声を拾い上げ、社会を形成していく主体の一人として参加していけるための活動を、よりいっそう拡充していくことを求めます。
2.「みんなで決める」ためのプロセスの社会的保障
この間の未曽有の感染症対策の下で、「現場の実態を無視した一方的な通達だけが下りてきた」「現場丸投げで判断・決定の責任が押し付けられた」「続けるか休止するか、スタッフ同士の議論も難しいなか、決定せざるを得なかった」など、決定のプロセスおよび責任の所在をめぐって、さまざまな軋轢が生じておりました。
調査結果からは、どのような形式が最も妥当なのかは見出せませんが、一つ言えるのは、決定に至るまでのプロセスを丁寧に経ていくということの重要さとその社会的保障になります。コロナ禍は、影響の多寡はさまざまながら、すべての人びとに降り注いでおり、 行政担当者も実践者もまさに当事者の一人です。確実な情報も正解も分からないまま、皆が不安と戸惑いを覚えるなかで、日々の生活や実践を進めていかねばなりません。そんなときにこそ問われてくるのが、それぞれの想いを共有し確認し合いながら決定していくというプロセスの保障です。
また、公的事業や助成金の一部には、「活動それ自体」にしか予算が計上されていないものもありますが、日々の活動を維持・運営していく上では、その背後にさまざまな準備や検討の時間が費やされています。この間の緊急事態に際し、「事業」としては見えづらい奮闘が各現場において展開されておりました。
こうした課題を超え出ていくためには、公的責任の明確化、現場の実態に合わせたガイドラインの作成、事業継続のための基盤的経費の拠出など課題は山積ですが、「みんなで決める」余地を社会的につくり出していくことを求めます。
3.「新しい生活様式」に即した事業規模・体制の拡充を
若者支援の現場において、この間の外出自粛で最も大きな影響を受けたのは、「他者と集うこと」(居場所の確保)にかかわるさまざまな制約が課されてしまったことです。他者・社会との相互作用により自己を形成していく途上にある若者期においては、それを担保するための多様なコミュニティの存在は欠かせません。
若者にとって、「そこに居る」ことが受け入れられ、仲間とともに試行錯誤を展開していける居場所・コミュニティは、「日常生活」を構成する基礎的要素であり、「成果」や「単年度契約」に追われていては安定的な運営はできません。また、「居場所がある」ということは、実際にそこへ参加できている若者だけでなく、いまだアクセスできていない若者たちにとっても、一定の安心感をもたらす場となっています。
「感染拡大リスク」と「居場所の維持・運営」とをどのように両立させていけるのかということは、いまだ悩ましい課題ではありますが、運営資金などに悩まされることなく、こうした場の保障を公的に担保していくことが、あらためて問われています。
「緊急事態」はひとまず終わりましたが、7月以降はさらなる感染拡大も起きており、政府からは「新しい生活様式」なる提案もされています。「身体的距離の確保」「移動の自粛」など、内実は多岐にわたりますが、それを提唱するのであれば、その様式に即したかたちで若者支援・居場所活動も実施していけるような人・モノ・金の抜本的な拡充・整備を求めます。
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